NISQとは?雑音が多い今の量子コンピュータの現在地をやさしく解説

NISQとは?雑音が多い今の量子コンピュータの現在地をやさしく解説(法務ラボ|iCraft法律事務所)

連載「量子ノート」第17回(非技術者でも理解できる量子技術)

ニュースでよく見かける「NISQ」とは、どんな量子コンピュータのことなのでしょうか?十分な誤り訂正で守られず、雑音によるエラーのためにできる計算が限られている、今の段階の量子コンピュータのことです。

この記事の要点
  • NISQは「雑音が多い、中規模の量子コンピュータ」の意味で、2018年に提唱されました。
  • 操作のたびにエラーが混じるため、長い計算を続けられないのが最大の弱点です。
  • VQEのように従来のコンピュータと組み合わせる方法や、誤り緩和が研究されています。
  • 目指す先は、誤り訂正で長い計算を行える誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)です。

執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月

目次

今の量子コンピュータの呼び名

量子コンピュータのニュースでは、「NISQ(ニスク)」という言葉をよく見かけます。これは英語の「Noisy Intermediate-Scale Quantum」の頭文字で、「雑音が多い、中規模の量子コンピュータ」という意味です。2018年に、アメリカの物理学者プレスキルが提唱しました。

提唱された当時は、数十から数百程度の量子ビットを持つ装置が想定されていましたが、個数に厳密な境目があるわけではありません。大切なのは、十分な誤り訂正で守られておらず、雑音によるエラーのためにできる計算が限られている、という点です。本格的な量子誤り訂正を行ったり、大規模な計算をこなしたりするには性能が足りない段階の量子コンピュータです。

雑音が計算の長さを縛る

NISQの最大の弱点は、計算を長く続けられないことです。量子ゲートの操作を一つ行うたびに、わずかなエラーが混じります。

これは伝言ゲームに似ています。一人ひとりの聞き間違いがわずかでも、人数が増えるほど、最後に届く言葉は元の言葉からずれていきます。

プレスキルは2018年、当時の装置のエラー率をもとに、大まかな見積もりを示しました。二つの量子ビットにまたがる操作をおよそ1000回より大幅に多く含む計算は、雑音にかき消されてしまうだろうというものです。実際の限界は、装置の精度や計算の内容によって変わります。

NISQでも役立てる工夫

それでも、NISQの時代にできることを探す研究が盛んに行われています。

代表的なのが、量子コンピュータと従来のコンピュータを組み合わせる方法です。例えば「変分量子固有値ソルバー(VQE)」と呼ばれる方法では、次のやり取りを繰り返します。量子コンピュータが分子のエネルギーを見積もり、その結果を見た従来のコンピュータが計算の設定を少しずつ調整する、というものです。

量子コンピュータが担う計算を短く保てるため、雑音の影響を抑えやすいのが特長です。ただし、答えの精度を上げるには測定を何度も繰り返す必要があり、この方法で従来のコンピュータを上回れるかどうかは、まだ確かめられている途中です。

また、エラーを完全には直さずに、結果に含まれるエラーの影響を後から推定して差し引く「誤り緩和」という技術も研究されています。

現在地と、その先

量子ビットの数は年々増え、1000個を超える装置も登場しています。それでも、日本の暗号評価プロジェクトであるCRYPTRECは、2024年度に調査報告書をまとめています。この報告書は、2025年時点で、すべての量子コンピュータはNISQの段階にあると考えられるとしています。一方で、同じ報告書は、誤り訂正によってエラーを減らす実験で成果が出始めていることにも触れています。

目指す先は、量子誤り訂正によってエラーを抑えながら長い計算を行える「誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)」です。私たちは今、NISQからFTQCへと続く道のりの途中にいます。この見取り図を頭に入れておくと、新しい成果が報じられたときに、それがどの段階の話なのかを判断しやすくなります。

よくある質問

量子ビットが1000個を超えれば、NISQではなくなるのですか?

個数に厳密な境目があるわけではありません。大切なのは、十分な誤り訂正で守られておらず、雑音によるエラーのためにできる計算が限られているという点です。

NISQの量子コンピュータでも役立つ使い方はありますか?

量子コンピュータと従来のコンピュータを組み合わせるVQEなどの方法が研究されています。ただし、この方法で従来のコンピュータを上回れるかどうかは、まだ確かめられている途中です。

NISQの次はどんな段階ですか?

量子誤り訂正によってエラーを抑えながら長い計算を行える「誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)」です。私たちは今、NISQからFTQCへと続く道のりの途中にいます。

まとめ

  • NISQは「雑音が多い、中規模の量子コンピュータ」の意味で、2018年に提唱されました。
  • 操作のたびにエラーが混じるため、長い計算を続けられないのが最大の弱点です。
  • VQEのように従来のコンピュータと組み合わせる方法や、誤り緩和が研究されています。
  • 目指す先は、誤り訂正で長い計算を行える誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)です。

量子技術に関わる共同研究開発契約・ライセンス契約、特許による技術の保護、外為法規制対応など、具体的な事案については弁護士にご相談ください。iCraft法律事務所でもご相談をお受けしています。

連載「量子ノート」


本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。

更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)

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この記事を書いた人

弁護士・弁理士(iCraft法律事務所)。京都大学工学部物理工学科卒業。生成AI・データ利活用・システム開発・知的財産、量子技術・宇宙・メタバース等のディープテック分野の法律問題を専門的に取り扱う。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」作業部会委員、日本弁護士連合会「AI戦略ワーキンググループ」委員、日本弁理士会特許委員会副委員長などを歴任。

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