連載「量子ノート」第13回(非技術者でも理解できる量子技術)
粒の位置と勢いを、両方とも同時にどこまでも正確に定めることはできるのでしょうか。できません。これは測定器の性能不足ではなく、粒が波の性質を持つことから生じる自然の性質です。
- 位置のばらつきと勢いのばらつきを掛け合わせた値は、一定の値より小さくできません。
- この関係は測り方の問題ではなく、粒が波の性質を持つことから生じます。
- 野球のボールでは問題になりませんが、電子では大きな影響が現れます。
- スクイーズド光のように、不確定性関係は精密な測定の工夫にも生かされています。
執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月
位置と勢いは同時に決めきれない
量子の世界には、「組になった二つの量は、両方を同時にどこまでも正確に定めることができない」という決まりがあります。その代表が、粒の位置と、粒の勢い(運動量、つまり重さと、向きも含めた速度を掛け合わせた量)の組合せです。
ここでいう「ばらつき」は、同じ状態を何度も用意して測ったときの値の散らばり具合(標準偏差)のことで、同じ向きの位置と勢いについて考えます。二つのばらつきを掛け合わせた値は、ある一定の値より小さくはできません。そのため、限界に近いところでは、位置のばらつきを小さくすると勢いのばらつきが大きくなり、勢いをそろえると今度は位置がぼやけてしまいます。この関係を「不確定性関係」といいます。
測り方が下手だからではない
これは、測定器の性能が足りないせいではありません。粒が波の性質を持つことから生じる、自然にもともと備わっている性質です。
音にたとえると分かりやすくなります。「ポン」と一瞬だけ鳴る音は、いつ鳴ったかははっきりしていますが、音の高さははっきりしません。反対に、長く伸ばした「ラー」という音は、高さは正確に分かりますが、いつの音かという点では広がっています。
波は、狭い範囲に押し込めるほど、さまざまな波長が混ざってしまうのです。粒の波でも同じことが起こり、波長の混ざり具合が勢いのばらつきにあたります。
小さなものほど効いてくる
この決まりは、大きな物では問題になりません。重さ145グラムの野球のボールの、ある方向の速度のばらつきを秒速1ミリメートルに抑えたとします。それでも、位置のあいまいさとして避けられないのは、小数点の後に0が30個並ぶほどのわずかな長さ(メートル単位)で、まったく気になりません。
ところが電子になると事情が一変します。電子の位置のばらつきを原子ほどの大きさ(0.1ナノメートル)にすると、その方向の速度のばらつきは、少なくとも秒速約580キロメートルになります。原子の中の電子が一か所にじっとしていられない理由の一つは、ここにあります。
二つの「不確定性」
不確定性の考え方を最初に示したのはドイツの物理学者ハイゼンベルクです。当初は「電子の位置を光で測ろうとすると、光がぶつかって電子の勢いを乱してしまう」という、測定による乱れとして説明されました。しかし現在では、測定による乱れと、状態そのものが持つばらつきは区別して考えるべきだとされています。この点について、日本の小澤正直氏が新しい関係式を提案し、話題になりました。
不確定性関係は、量子技術の限界を決める一方で、工夫の手がかりにもなります。例えば、光の波が持つ対になった二つの性質のうち、測定に使う側の揺らぎを小さくする代わりに、もう片方の揺らぎを大きくした特別な光(スクイーズド光)があります。この光を使うと、通常の光よりも精密な測定ができることが実験で示されています。
よくある質問
- 不確定性関係は測定器の性能が足りないせいですか?
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いいえ。粒が波の性質を持つことから生じる、自然にもともと備わっている性質です。波は狭い範囲に押し込めるほど、さまざまな波長が混ざってしまうためです。
- 不確定性関係は身の回りの物にも影響しますか?
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大きな物では問題になりません。野球のボールの速度のばらつきを秒速1ミリメートルに抑えても、避けられない位置のあいまいさはごくわずかで、まったく気になりません。
- 測定による乱れと不確定性関係は同じものですか?
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現在では、測定による乱れと、状態そのものが持つばらつきは区別して考えるべきだとされています。この点について、日本の小澤正直氏が新しい関係式を提案しました。
まとめ
- 位置のばらつきと勢いのばらつきを掛け合わせた値は、一定の値より小さくできません。
- この関係は測り方の問題ではなく、粒が波の性質を持つことから生じます。
- 野球のボールでは問題になりませんが、電子では大きな影響が現れます。
- スクイーズド光のように、不確定性関係は精密な測定の工夫にも生かされています。
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本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。
更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)
