トンネル効果とは?越えられない壁を電子が通り抜ける仕組みを解説

トンネル効果とは?越えられない壁を電子が通り抜ける仕組みを解説(法務ラボ|iCraft法律事務所)

連載「量子ノート」第14回(非技術者でも理解できる量子技術)

エネルギーが足りないのに、電子が壁の向こう側に現れることがあるのはなぜでしょうか。電子は波の性質を持ち、壁が十分に薄ければ弱まった波の一部が反対側まで届くからです。

この記事の要点
  • エネルギーが足りなくても粒が壁の向こうに現れる現象をトンネル効果といいます。
  • トンネル効果は、粒が波の性質を持つことから起こります。
  • 壁が少し厚くなったり高くなったりするだけで、通り抜ける確率は急激に小さくなります。
  • エサキダイオードや走査型トンネル顕微鏡、量子コンピュータに使われています。

執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月

目次

越えられないはずの壁を通り抜ける

ボールを高い壁に向かって投げると、跳ね返ってきます。壁を越えるだけのエネルギーがなければ、ボールが壁の向こう側に現れることはありません。

ところが電子のような小さな粒では、エネルギーが足りなくても、ある確率で壁の向こう側に現れることがあります。まるで壁にトンネルを掘って抜けたように見えることから、この現象を「トンネル効果」といいます。ここでいう壁は、実際の板ではなく、電子の位置によって変わるエネルギー(ポテンシャルエネルギー)の「山」のことです。

波だから起こる

トンネル効果は、粒が波の性質を持つことから起こります。電子の波は、壁の中に入ると急速に弱まっていきますが、すぐにゼロにはなりません。壁が十分に薄ければ、弱まった波の一部が壁の反対側まで届きます。電子が見つかる確率は波の強さで決まるため、壁の向こうで電子が見つかる可能性が生まれるのです。

ただし、壁が少し厚くなったり高くなったりするだけで、通り抜けられる確率は急激に小さくなります。この確率は、壁の厚さや高さのほか、粒の重さにも左右されます。多くの電子素子では、トンネル効果がはっきり現れるのは、ナノメートル(10億分の1メートル)程度のごく薄い壁です。

身近な技術で活躍するトンネル効果

トンネル効果は、すでにさまざまな技術に使われています。

江崎玲於奈氏は、半導体の中で電子がトンネル効果によって流れることを確かめ、その性質を利用した「トンネルダイオード(エサキダイオード)」を発明しました。この業績により、1973年にノーベル物理学賞を受賞しています。

1982年にビーニッヒとローラーが発表した「走査型トンネル顕微鏡」も、トンネル効果の応用です。鋭くとがった針を物の表面から1ナノメートルほどまで近づけると、すき間をトンネル効果で電子が流れます。この電流はすき間の幅によって大きく変わるため、電流を測りながら針で表面をなぞれば、表面の原子の並びや電子の様子を、原子の大きさの細かさで調べることができます。この顕微鏡は1986年のノーベル物理学賞の対象になりました。

量子コンピュータの中にも

超伝導を使う量子コンピュータの心臓部には、「ジョセフソン接合」と呼ばれる部品があります。二つの超伝導体の間に薄い絶縁体をはさんだ構造で、ここでは、二つの電子が組になった「電子対」がトンネル効果で行き来しています。

また、最適な組合せを探す「量子アニーリング」という計算方式は、トンネル効果を使って、答えの候補の間を行き来する仕組みを取り入れています。トンネル効果は、量子の不思議さを示すと同時に、実際に役立つ技術の土台にもなっているのです。

よくある質問

トンネル効果の「壁」とは何ですか?

実際の板ではなく、電子の位置によって変わるエネルギー(ポテンシャルエネルギー)の「山」のことです。

どんな壁でも通り抜けられるのですか?

いいえ。壁が少し厚くなったり高くなったりするだけで、通り抜けられる確率は急激に小さくなります。多くの電子素子では、トンネル効果がはっきり現れるのはナノメートル程度のごく薄い壁です。

トンネル効果は量子コンピュータにどう使われていますか?

超伝導を使う量子コンピュータの心臓部にあるジョセフソン接合では、電子対がトンネル効果で行き来しています。また、量子アニーリングもトンネル効果を使って答えの候補の間を行き来する仕組みを取り入れています。

まとめ

  • エネルギーが足りなくても粒が壁の向こうに現れる現象をトンネル効果といいます。
  • トンネル効果は、粒が波の性質を持つことから起こります。
  • 壁が少し厚くなったり高くなったりするだけで、通り抜ける確率は急激に小さくなります。
  • エサキダイオードや走査型トンネル顕微鏡、量子コンピュータに使われています。

量子技術に関わる共同研究開発契約・ライセンス契約、特許による技術の保護、外為法規制対応など、具体的な事案については弁護士にご相談ください。iCraft法律事務所でもご相談をお受けしています。

連載「量子ノート」


本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。

更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)

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この記事を書いた人

弁護士・弁理士(iCraft法律事務所)。京都大学工学部物理工学科卒業。生成AI・データ利活用・システム開発・知的財産、量子技術・宇宙・メタバース等のディープテック分野の法律問題を専門的に取り扱う。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」作業部会委員、日本弁護士連合会「AI戦略ワーキンググループ」委員、日本弁理士会特許委員会副委員長などを歴任。

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