連載「量子ノート」第18回(非技術者でも理解できる量子技術)
量子コンピュータが従来のコンピュータを追い越したというニュースは、何を意味するのでしょうか?それは特別な課題での優位性を示した実験で、見積もりは計算手法の進歩で塗り替えられることもあります。
- 量子優位性とは、従来のコンピュータが現実的な時間でできない計算を量子で行うことです。
- 2019年にGoogleが「シカモア」で、2020年に中国のチームが「九章」で実験を発表しました。
- 紹介された実験が示したのは、あくまで特別な課題での優位性です。
- 従来の計算手法も進歩するため、優位性は競争の中で確かめられ続けるものです。
執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月
量子が従来のコンピュータを追い越す瞬間
量子コンピュータの研究には、一つの大きな目標がありました。量子コンピュータが、従来のどんなコンピュータでも現実的な時間ではできない計算を、実際にやってみせることです。これを「量子優位性」、あるいは「量子超越性」といいます。
量子超越性(クォンタム・スプレマシー)という言葉は、アメリカの物理学者プレスキルが提案したものです。ここで大切なのは、その計算が世の中の役に立つかどうかは問わない、という点です。まずは、はっきり定めた課題について、従来のコンピュータでは現実的な時間で追いつけない計算を量子コンピュータで実行できることを、実験で示すことに意味がありました。
2019年、Googleの実験
2019年、Googleの研究チームは、53個の量子ビットを持つ超伝導方式の装置「シカモア」を使った実験を発表しました。量子ビットをでたらめに操作する回路を組み、その結果を100万回読み出すという課題です。シカモアはこの課題を約200秒で終え、Googleは、当時最先端のスーパーコンピュータでは約1万年かかると見積もりました。ただし、IBMは同時期に、計算の方法を工夫すれば約2.5日で済むという別の見積もりを示し、議論になりました。
もっとも、この課題は、量子コンピュータが得意になるように選ばれたもので、それ自体に実用的な使い道はありません。
光を使った実験も
2020年には、中国の研究チームが、光を使う装置「九章」で、別の種類の課題を使った実験を行いました。光の干渉を使って、特定の確率の分布に従う出力を作り出す課題です。研究チームは、最大76個の光子を検出し、スーパーコンピュータで同じ確率分布に従う出力を同じ程度の精度で作る場合に比べて桁違いに速かったと報告しています。2022年にはカナダのXanadu社も、光を使う装置で量子優位性を示したと発表しました。
見積もりは塗り替えられうる
量子優位性の主張には、注意すべき点もあります。従来のコンピュータの性能も、計算の手法も、日々進歩しているからです。量子コンピュータにしかできないと考えられていた計算でも、より良い計算方法が見つかれば、必要な時間の見積もりは大きく縮まる可能性があります。そのため、量子優位性は一度示されたら終わりではなく、従来のコンピュータとの競争の中で確かめられ続けるものといえます。
次の目標は「役に立つ優位性」
ここで紹介した実験が示したのは、あくまで特別な課題での優位性でした。次の大きな目標は、新しい薬や材料の開発につながる分子の計算など、実際に役立つ問題で従来のコンピュータを上回ることです。そのために必要な量子ビットの数や計算時間を見積もる研究も進んでいます。ニュースで量子優位性という言葉を見かけたら、「どんな課題で、何と比べた優位性なのか」に注目すると、その意味がよく分かります。
よくある質問
- 量子優位性が示された計算は、何かの役に立つのですか?
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量子優位性では、その計算が役に立つかどうかは問いません。Googleの実験の課題も、量子コンピュータが得意になるように選ばれたもので、それ自体に実用的な使い道はありません。
- 一度量子優位性が示されれば、決着がついたことになりますか?
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いいえ。従来のコンピュータの性能や計算手法も進歩しており、より良い計算方法が見つかれば見積もりは大きく縮まる可能性があります。Googleの実験でも、IBMが約2.5日で済むという別の見積もりを示しました。
- ニュースで量子優位性という言葉を見たら、どこに注目すればよいですか?
-
「どんな課題で、何と比べた優位性なのか」に注目すると、その意味がよく分かります。
まとめ
- 量子優位性とは、従来のコンピュータが現実的な時間でできない計算を量子で行うことです。
- 2019年にGoogleが「シカモア」で、2020年に中国のチームが「九章」で実験を発表しました。
- 紹介された実験が示したのは、あくまで特別な課題での優位性です。
- 従来の計算手法も進歩するため、優位性は競争の中で確かめられ続けるものです。
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本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。
更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)
