量子の観測とは?測定すると状態が変わる仕組みをやさしく解説

量子の観測とは?測定すると状態が変わる仕組みをやさしく解説(法務ラボ|iCraft法律事務所)

連載「量子ノート」第4回(非技術者でも理解できる量子技術)

量子の世界では、なぜ「観測」が特別な意味を持つのでしょうか。測定すると結果は0か1に決まり、元の重ね合わせが失われるため、見ることそのものが状態を変えてしまうからです。

この記事の要点
  • 重ね合わせの量子ビットを測ると、結果は0か1になり重ね合わせは失われます。
  • 測定結果は確率でしか決まらず、1回の測定から元の割合は分かりません。
  • 未知の量子状態は、量子複製不可能定理によりコピーできません。
  • 観測の性質は量子計算の弱点ですが、量子暗号通信では盗聴を見破る武器になります。

執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月

目次

見ることが結果を変える

日常の世界では、ものを見たり測ったりしても、そのもの自体の変化はほとんど無視できます。机の上のリンゴを眺めても、リンゴの位置や重さは変わりません。ところが量子の世界では、「観測(測定)」という行為が特別な意味を持ちます。

ここでは、量子ビットの0と1を区別する基本的な測り方を考えます。重ね合わせの状態にある量子ビットをこの方法で測定すると、結果は必ず0か1のどちらかになります。そして測定の後、量子ビットは出た結果の状態に変わってしまいます。0と1の重ね合わせだったものが、測定によってどちらか一つに決まり、元の重ね合わせは失われるのです。

結果は確率でしか決まらない

測定でどちらの結果が出るかは、あらかじめ確定していません。決まっているのは、それぞれの結果が出る確率だけです。

例えば、0が出る確率が70%、1が出る確率が30%の量子ビットがあるとします。1回測っただけでは、どちらが出るかは予測できません。同じ状態を何度も用意して測定を繰り返すと、およそ7割が0、3割が1になります。

ここで大切なのは、1回の測定から元の状態を知ることはできないという点です。分かるのは「0だった」か「1だった」かだけで、70%と30%という割合は分かりません。しかも、測定した時点で量子ビットは測定後の状態に変わっているため、同じ量子ビットをもう一度測っても、測定前の割合を調べることはできません。割合を知るには、同じ状態を何度も作り直して測る必要があります。

コピーもできない

それなら、コピーをたくさん作って少しずつ測ればよいと思うかもしれません。しかし量子の世界には、未知の量子状態を完全にコピーすることはできないという原理があります。1982年に示された「量子複製不可能定理」です。この抜け道も塞がれているのです。

弱点であり、武器でもある

観測のこうした性質は、量子コンピュータにとっては悩みの種です。計算途中の状態を、壊さずにそのまま読み出すことはできず、最後の測定で得られるのは一つの結果だけです。なお、計算の補助に使う量子ビットを途中で測り、その結果を後の操作に生かす方法はあり、量子誤り訂正などで使われています。そのため量子の計算は、最後に正しい答えが高い確率で出るよう、あらかじめ巧みに設計しておく必要があります。

一方で、この性質は武器にもなります。量子暗号通信では、誰かが通信を盗み見ようとすると、その観測によって量子の状態が乱れます。多くの信号を調べると、その乱れが痕跡として現れます。「見ると変わってしまう」という性質そのものが、盗聴を見破る仕組みになっているのです。

量子の観測は、量子技術の限界と可能性の両方を決める重要な鍵です。

よくある質問

同じ量子ビットを何度も測れば、元の確率が分かりますか?

分かりません。測定した時点で量子ビットは測定後の状態に変わっているためです。割合を知るには、同じ状態を何度も作り直して測る必要があります。

量子ビットをコピーしてから測ればよいのではありませんか?

未知の量子状態を完全にコピーすることはできないという原理があります。1982年に示された「量子複製不可能定理」です。

観測の性質は、量子暗号通信でどう役立つのですか?

誰かが通信を盗み見ようとすると、その観測によって量子の状態が乱れます。多くの信号を調べるとその乱れが痕跡として現れるため、盗聴を見破れます。

まとめ

  • 重ね合わせの量子ビットを測ると、結果は0か1になり重ね合わせは失われます。
  • 測定結果は確率でしか決まらず、1回の測定から元の割合は分かりません。
  • 未知の量子状態は、量子複製不可能定理によりコピーできません。
  • 観測の性質は量子計算の弱点ですが、量子暗号通信では盗聴を見破る武器になります。

量子技術に関わる共同研究開発契約・ライセンス契約、特許による技術の保護、外為法規制対応など、具体的な事案については弁護士にご相談ください。iCraft法律事務所でもご相談をお受けしています。

連載「量子ノート」


本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。

更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)

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この記事を書いた人

弁護士・弁理士(iCraft法律事務所)。京都大学工学部物理工学科卒業。生成AI・データ利活用・システム開発・知的財産、量子技術・宇宙・メタバース等のディープテック分野の法律問題を専門的に取り扱う。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」作業部会委員、日本弁護士連合会「AI戦略ワーキンググループ」委員、日本弁理士会特許委員会副委員長などを歴任。

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