量子干渉とは?量子コンピュータが速い本当の理由をやさしく解説

量子干渉とは?量子コンピュータが速い本当の理由をやさしく解説(法務ラボ|iCraft法律事務所)

連載「量子ノート」第5回(非技術者でも理解できる量子技術)

量子コンピュータは「すべての答えを同時に試せるから速い」のでしょうか。実はそれは正確ではなく、本当の力は確率振幅を強め合い打ち消し合わせる「量子干渉」の利用にあります。

この記事の要点
  • 量子干渉とは、確率振幅どうしが強め合ったり打ち消し合ったりする現象です。
  • 重ね合わせで多数の候補を扱えても、測定で出るのは一つだけです。
  • 正しい答えを強め合わせ、間違った答えを打ち消し合わせるのが量子計算の工夫です。
  • 干渉をうまく使えるのは特定の問題に限られ、何でも速くなるわけではありません。

執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月

目次

波が強め合い、打ち消し合う

池に二つの石を投げ込むと、それぞれから広がった波がぶつかり合います。山と山が重なった場所では波は高くなり、山と谷が重なった場所では打ち消し合って水面が静かになります。これが「干渉」です。

量子の世界の粒子も波としての性質を持っています。重ね合わせの状態にあるそれぞれの可能性には、確率のもとになる「確率振幅」という、波の山や谷にあたる量が付いています。この確率振幅どうしが強め合ったり打ち消し合ったりします。これを「量子干渉」といいます。

二重スリット実験で電子が縞模様を描くのも、この量子干渉によるものです。

「全部同時に試す」は誤解

量子コンピュータについて、「すべての答えを同時に試せるから速い」という説明を見かけます。しかし、これは正確ではありません。

量子ビットを重ね合わせにすれば、多数の候補を一度に扱うことはできます。しかし最後に測定すると、候補のうち一つがランダムに出てくるだけです。これでは当てずっぽうで答えを選ぶのと変わりません。

量子コンピュータの本当の力は、干渉の利用にあります。計算手順を工夫して、正しい答えにつながる可能性どうしは強め合い、間違った答えにつながる可能性どうしは打ち消し合うようにするのです。そうすれば、最後に測定したとき、正しい答えが高い確率で出てきます。

雑音を消すヘッドホンのように

この仕組みは、ノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンに似ています。ヘッドホンは、周囲の騒音と逆の形をした音の波をぶつけて騒音を打ち消します。量子アルゴリズム(計算の手順)も、問題が持つ構造を利用して、不要な答えの可能性を打ち消し、欲しい答えを浮かび上がらせます。

代表例が、1994年にショアが考案した、大きな数を素因数分解するアルゴリズムです。素因数分解は、RSA暗号など、広く使われている公開鍵暗号の一部の安全性の土台となっている問題です。従来のコンピュータでは、現在知られている方法を使っても、桁数が大きくなると現実的な時間で解くことができません。ショアのアルゴリズムは、干渉を巧みに使うことで、量子コンピュータならこの問題を効率よく解けることを示しました。

得意な問題は限られる

干渉をうまく使える計算手順は、どんな問題にでも作れるわけではありません。そのため、量子コンピュータが従来のコンピュータより大幅に速くなるのは、素因数分解や、分子の性質の計算の一部など、特定の種類の問題に限られると考えられています。量子干渉は、量子コンピュータがなぜ速いのか、そしてなぜ何でも速くなるわけではないのかを理解する鍵です。

よくある質問

量子コンピュータは、すべての答えを同時に試せるから速いのですか?

正確ではありません。最後に測定すると候補のうち一つがランダムに出るだけです。本当の力は、正しい答えが高い確率で出るよう干渉を利用する点にあります。

ショアのアルゴリズムとは何ですか?

1994年にショアが考案した、大きな数を素因数分解するアルゴリズムです。干渉を巧みに使い、量子コンピュータならこの問題を効率よく解けることを示しました。

量子コンピュータはどんな問題でも速く解けますか?

いいえ。干渉をうまく使える計算手順はどんな問題にでも作れるわけではなく、大幅に速くなるのは素因数分解や分子の性質の計算の一部など、特定の種類の問題に限られると考えられています。

まとめ

  • 量子干渉とは、確率振幅どうしが強め合ったり打ち消し合ったりする現象です。
  • 重ね合わせで多数の候補を扱えても、測定で出るのは一つだけです。
  • 正しい答えを強め合わせ、間違った答えを打ち消し合わせるのが量子計算の工夫です。
  • 干渉をうまく使えるのは特定の問題に限られ、何でも速くなるわけではありません。

量子技術に関わる共同研究開発契約・ライセンス契約、特許による技術の保護、外為法規制対応など、具体的な事案については弁護士にご相談ください。iCraft法律事務所でもご相談をお受けしています。

連載「量子ノート」


本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。

更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)

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この記事を書いた人

弁護士・弁理士(iCraft法律事務所)。京都大学工学部物理工学科卒業。生成AI・データ利活用・システム開発・知的財産、量子技術・宇宙・メタバース等のディープテック分野の法律問題を専門的に取り扱う。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」作業部会委員、日本弁護士連合会「AI戦略ワーキンググループ」委員、日本弁理士会特許委員会副委員長などを歴任。

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