連載「量子ノート」第3回(非技術者でも理解できる量子技術)
遠く離れた粒子どうしが結びつく「量子もつれ」とは、どのような現象なのでしょうか。もつれた粒子は離れても測定結果に強い相関が現れ、それは答えが最初から決まっていたという考え方では説明できません。
- 量子もつれでは、離れた粒子の測定結果の間に強い相関が現れます。
- その相関は、ベルの不等式が示す上限を超えることが実験で確かめられています。
- もつれを使っても、光より速く情報を送ることはできません。
- 量子もつれは、量子技術を支える貴重な「資源」として扱われています。
執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月
離れていても結びついた粒子
量子もつれ(エンタングルメント)とは、二つ以上の粒子が一つのまとまった状態として結びついている現象です。もつれ合った粒子は、どれだけ遠く離れても、片方の測定結果ともう片方の測定結果との間に強い相関が現れます。
例えば、二つの量子ビットを、「両方とも0」と「両方とも1」を同じ重みで重ね合わせた、もつれた状態にしたとします。この段階では、どちらも0か1か決まっていません。ところが、両方を0か1かを区別する同じ測り方で測ると、片方で0が出れば、もう片方も必ず0になり、1が出ればもう片方も必ず1になります。二つが地球の反対側にあっても同じです。
手袋のたとえとの違い
これだけなら、左右の手袋を一つずつ箱に入れて遠くへ送る話と同じに思えるかもしれません。片方の箱から右手用が出てくれば、もう片方は左手用だと分かります。しかし手袋の場合、左右は箱に入れた時点で決まっています。
量子もつれは、この手袋の話とは違います。物理学者ベルは1964年に、ある考え方のもとで、二つの測定結果の相関がどこまで強くなりうるかという上限を示しました(ベルの不等式)。その考え方とは、「答えは粒子にあらかじめ書き込まれていて、離れた粒子どうしは互いに影響し合わない」というものです。
実際に、適切なもつれ状態を用意し、測る向きを選んで相関を調べると、この上限を超える強い相関が現れます。手袋のように、答えが最初から決まっていて、離れた粒子どうしは影響し合わないという考え方では説明できないのです。こうした実験を進めたアスペ、クラウザー、ツァイリンガーの3氏には、2022年のノーベル物理学賞が贈られています。アインシュタインが「不気味な遠隔作用」と呼んで疑問を投げかけた現象は、今では実験で繰り返し確認されています。
光より速い通信はできない
よくある誤解が、「もつれを使えば離れた場所へ一瞬で情報を送れる」というものです。実際にはそれはできません。片方を測って0が出るか1が出るかは半々のランダムで、測る人が結果を選べないからです。
自分の側でどんな操作をしても、相手の側で0と1が出る割合を変えることはできず、相手から見れば、自分の結果はランダムにしか見えません。二人の結果に相関があると分かるのは、電話などの通常の手段で結果を照らし合わせたときです。そのため、相対性理論とも矛盾しません。
量子技術を支える資源
量子もつれは、量子コンピュータの多くの計算で重要な役割を果たします。また、量子暗号通信や、量子の状態を離れた場所へ移す「量子テレポーテーション」、量子センサーの精度を高めるための活用も研究されています。量子技術の世界では、もつれは貴重な「資源」として扱われているのです。
よくある質問
- 量子もつれは、左右の手袋を別々に送る話と何が違うのですか?
-
手袋は箱に入れた時点で左右が決まっています。量子もつれでは、ベルの不等式の上限を超える強い相関が現れ、答えが最初から決まっていたという考え方では説明できません。
- 量子もつれを使えば、一瞬で情報を送れますか?
-
送れません。片方を測った結果は半々のランダムで、測る人が結果を選べないからです。相関が分かるのは、電話などの通常の手段で結果を照らし合わせたときです。
まとめ
- 量子もつれでは、離れた粒子の測定結果の間に強い相関が現れます。
- その相関は、ベルの不等式が示す上限を超えることが実験で確かめられています。
- もつれを使っても、光より速く情報を送ることはできません。
- 量子もつれは、量子技術を支える貴重な「資源」として扱われています。
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本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。
更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)
