量子センシングとは?量子の敏感さで磁気や時間を精密に測る技術を解説

量子センシングとは?量子の敏感さで磁気や時間を精密に測る技術を解説(法務ラボ|iCraft法律事務所)

連載「量子ノート」第10回(非技術者でも理解できる量子技術)

量子の状態の壊れやすさは、量子技術にとって弱点でしかないのでしょうか。発想を逆転させれば、その敏感さを生かして磁気や温度、時間をごく精密に測れます。

この記事の要点
  • 量子センシングは、量子の状態の敏感さを生かして磁気や温度、時間などを精密に測る技術です。
  • ダイヤモンドのNVセンターを使ったセンサーは、常温で非常に小さな領域の磁気を測れます。
  • 光格子時計は、数センチメートルの高さの違いによる時間の進み方の差まで観測できます。
  • 測りたい信号以外の雑音で状態が乱れると正確に測れないため、雑音の抑制が大きな課題です。

執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月

目次

敏感さを武器に変える

量子の状態はとても壊れやすく、周囲のわずかな熱や磁気、振動などの影響ですぐに変化してしまいます。量子コンピュータにとって、この性質は最大の悩みの種です。

ところが発想を逆転させると、この敏感さは長所になります。測りたい磁気や温度などに応じて量子の状態が変化するなら、その変化を読み取ることで、ごくわずかな磁気や温度、時間の変化を測れるからです。量子の性質を使って、こうした量を精密に測る技術を「量子センシング」といいます。ただし、測りたい信号以外の雑音で状態が乱れると、かえって正確に測れなくなるため、雑音をどう抑えるかが大きな課題になります。

ダイヤモンドで磁気を測る

代表例の一つが、ダイヤモンドを使った磁気センサーです。ダイヤモンドは炭素原子が規則正しく並んだ結晶です。この結晶では、炭素原子の一つが窒素原子に置き換わり、その隣の原子が抜けて穴(空孔)になった「NVセンター」という構造を作ることができます。NVセンターの電子は周囲の磁気に敏感に反応して状態を変え、その変化は光で読み取れます。

NVセンターを使ったセンサーは、常温で動作し、非常に小さな領域の磁気を測れるのが特長です。脳が発するごく弱い磁気を測る医療への応用や、電気自動車の電池の状態を見守る用途などが研究されています。

時間を極めて正確に測る

時間の測定も、量子センシングが力を発揮する分野です。現在の1秒の長さは、セシウム原子が吸収・放出する電磁波の振動をもとに定められています。原子のエネルギーの状態は量子力学によって厳密に決まっているため、これを時計の振り子として使うと、非常に正確な「原子時計」ができるのです。

さらに、東京大学の香取秀俊教授が考案した「光格子時計」は、18桁という精度を持ち、これは100億年以上たっても1秒もずれないほどの性能に相当します。相対性理論は、「地表付近では、高い場所ほど時間がわずかに速く進む」効果を予言しています。ここまで精密になると、この効果により、数センチメートルの高さの違いによる時間の進み方の差まで観測できます。

2020年には、東京スカイツリーの地上約450メートルの展望台と地上に光格子時計を置き、高さによる時間の進み方の違いを測った実験の成果が発表されました。将来は、地下の資源や地殻の変動を調べることにも役立つと期待されています。

世界をより細かく「見る」技術

量子センシングは、医療や計測、資源探査などの分野で、早期の実用化を目指した取り組みが進められています。量子技術は、計算するためだけでなく、世界をより細かく見るための技術でもあるのです。

よくある質問

NVセンターとは何ですか?

ダイヤモンドの炭素原子の一つが窒素原子に置き換わり、その隣の原子が抜けて穴(空孔)になった構造です。その電子は周囲の磁気に敏感に反応して状態を変え、その変化は光で読み取れます。

光格子時計はどれほど正確なのですか?

18桁という精度を持ち、100億年以上たっても1秒もずれないほどの性能に相当します。

量子センシングはどんな分野で役立つと期待されていますか?

脳が発するごく弱い磁気を測る医療や、電気自動車の電池の状態を見守る用途が研究されています。光格子時計は、地下の資源や地殻の変動を調べることにも役立つと期待されています。

まとめ

  • 量子センシングは、量子の状態の敏感さを生かして磁気や温度、時間などを精密に測る技術です。
  • ダイヤモンドのNVセンターを使ったセンサーは、常温で非常に小さな領域の磁気を測れます。
  • 光格子時計は、数センチメートルの高さの違いによる時間の進み方の差まで観測できます。
  • 測りたい信号以外の雑音で状態が乱れると正確に測れないため、雑音の抑制が大きな課題です。

量子技術に関わる共同研究開発契約・ライセンス契約、特許による技術の保護、外為法規制対応など、具体的な事案については弁護士にご相談ください。iCraft法律事務所でもご相談をお受けしています。

連載「量子ノート」


本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。

更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)

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この記事を書いた人

弁護士・弁理士(iCraft法律事務所)。京都大学工学部物理工学科卒業。生成AI・データ利活用・システム開発・知的財産、量子技術・宇宙・メタバース等のディープテック分野の法律問題を専門的に取り扱う。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」作業部会委員、日本弁護士連合会「AI戦略ワーキンググループ」委員、日本弁理士会特許委員会副委員長などを歴任。

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