量子誤り訂正とは?壊れやすい量子情報をエラーから守る仕組みを解説

量子誤り訂正とは?壊れやすい量子情報をエラーから守る仕組みを解説(法務ラボ|iCraft法律事務所)

連載「量子ノート」第8回(非技術者でも理解できる量子技術)

エラーの多い量子コンピュータで、どうすれば情報を守れるのでしょうか。その答えが、情報を多くの量子ビットに分散させてエラーを直す「量子誤り訂正」です。

この記事の要点
  • 量子の状態はコピーできず、測定すると重ね合わせが壊れるため、従来の誤り訂正をそのまま使えません。
  • 一つの量子ビット分の情報を、もつれを使って多数の物理量子ビットに分散させ、論理量子ビットを作ります。
  • 情報そのものは測らず、エラーの手がかりだけを測定して、エラーを推定し修正します。
  • 装置のエラー率がしきい値を下回らなければ、量子ビットを増やしても情報の保護は良くなりません。

執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月

目次

コンピュータはエラーと付き合ってきた

コンピュータや通信の世界では、エラーは避けられないものです。電波の雑音や記録媒体の傷によって、0が1に、1が0に化けることがあります。そこで使われてきたのが「誤り訂正」という技術です。

最も簡単な方法は、同じ情報を繰り返すことです。0を送りたいときは「000」、1を送りたいときは「111」と送ります。受け手が「010」を受け取ったら、多数決で元は0だったと判断できます。実際にはもっと効率のよい方法が使われていますが、情報に「余分」を持たせてエラーを見つけて直すという考え方は同じです。

量子ではなぜ難しいのか

量子コンピュータは、デコヒーレンスや操作の誤差によって、従来のコンピュータよりはるかに頻繁にエラーを起こします。誤り訂正は量子コンピュータにこそ必要な技術ですが、従来の方法をそのまま使うことはできません。

まず、量子の状態はコピーできないため、情報をそのまま複製して多数決を取る方法が使えません。次に、エラーの有無を確かめようとして量子ビットを測定すると、重ね合わせが壊れてしまいます。さらに、量子ビットのエラーは0と1の入れ替わりだけではありません。重ね合わせの「波」の山と谷の関係がずれるという、従来のコンピュータにはない種類のエラーもあります。

情報を多くの量子ビットに広げる

この難題への答えが「量子誤り訂正」です。基本的な考え方は、一つの量子ビット分の情報を、もつれを使って多数の量子ビットに分散して持たせることです。こうして作られたエラーに強い一まとまりを「論理量子ビット」、それを構成する個々の量子ビットを「物理量子ビット」と呼びます。

そのうえで、情報そのものは測らずに、「隣り合う量子ビットの状態がそろっているか」といったエラーの手がかりだけを測定します。これにより、重ね合わせを壊さずに、どこでどんなエラーが起きたかを推定して修正できるのです。代表的な方式として、量子ビットを格子状に並べる「表面符号」が盛んに研究されています。

実用化への道のり

量子誤り訂正には厳しい条件があります。ゲートや測定も含めた装置のエラー率は、その訂正方式で決まるある値(しきい値)を下回っていなければなりません。そうでなければ、量子ビットを増やしても情報の保護は良くならず、かえってエラーが増えてしまうこともあるのです。

2024年には、Googleの研究チームが、超伝導方式の量子コンピュータで量子情報を保存しておく実験を行い、しきい値を下回る性能を実現しました。論理量子ビットを一回り大きくするたびに、エラー率が半分以下に下がることを示し、大きな節目として注目されました。これは情報を保存する性能についての成果で、長い計算を誤りなく実行できることまでを示したものではありません。

実用的な量子コンピュータには多数の論理量子ビットが必要で、そのために膨大な数の物理量子ビットが必要になると見込まれています。量子誤り訂正は、量子コンピュータが実験装置から役に立つ計算機へと進むための中核技術です。

よくある質問

なぜ従来の誤り訂正の方法を量子にそのまま使えないのですか?

量子の状態はコピーできないため、情報を複製して多数決を取る方法が使えません。また、エラーを確かめようと測定すると重ね合わせが壊れてしまい、0と1の入れ替わり以外の種類のエラーもあるからです。

論理量子ビットと物理量子ビットの違いは何ですか?

情報を多数の量子ビットに分散させて作った、エラーに強い一まとまりを論理量子ビットと呼びます。それを構成する個々の量子ビットが物理量子ビットです。

2024年のGoogleの成果は何を示したのですか?

超伝導方式の量子コンピュータで量子情報を保存する実験を行い、しきい値を下回る性能を実現しました。論理量子ビットを一回り大きくするたびにエラー率が半分以下に下がることを示しましたが、長い計算を誤りなく実行できることまでを示したものではありません。

まとめ

  • 量子の状態はコピーできず、測定すると重ね合わせが壊れるため、従来の誤り訂正をそのまま使えません。
  • 一つの量子ビット分の情報を、もつれを使って多数の物理量子ビットに分散させ、論理量子ビットを作ります。
  • 情報そのものは測らず、エラーの手がかりだけを測定して、エラーを推定し修正します。
  • 装置のエラー率がしきい値を下回らなければ、量子ビットを増やしても情報の保護は良くなりません。

量子技術に関わる共同研究開発契約・ライセンス契約、特許による技術の保護、外為法規制対応など、具体的な事案については弁護士にご相談ください。iCraft法律事務所でもご相談をお受けしています。

連載「量子ノート」


本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。

更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)

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この記事を書いた人

弁護士・弁理士(iCraft法律事務所)。京都大学工学部物理工学科卒業。生成AI・データ利活用・システム開発・知的財産、量子技術・宇宙・メタバース等のディープテック分野の法律問題を専門的に取り扱う。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」作業部会委員、日本弁護士連合会「AI戦略ワーキンググループ」委員、日本弁理士会特許委員会副委員長などを歴任。

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