量子ビットとは?0と1を重ね合わせる情報の単位をやさしく解説

量子ビットとは?0と1を重ね合わせる情報の単位をやさしく解説(法務ラボ|iCraft法律事務所)

連載「量子ノート」第1回(非技術者でも理解できる量子技術)

量子コンピュータが使う「量子ビット」は、普通のビットと何が違うのでしょうか。量子ビットは0と1を重ね合わせた状態を取れ、数が増えるほど扱える組合せが2倍ずつ急増します。

この記事の要点
  • 普通のビットは0か1のどちらかですが、量子ビットは0と1の重ね合わせを取れます。
  • 量子ビットが1つ増えるごとに、重ね合わせに含められる組合せは2倍になります。
  • 50個の量子ビットの状態を一覧で記録すると、約18ペタバイトの記憶容量が必要です。
  • 測定で得られる結果は1通りだけなので、干渉を使って正しい答えを出やすくします。

執筆:弁護士・弁理士 内田誠(iCraft法律事務所)/執筆時点:令和8年9月

目次

0と1だけではない情報の単位

私たちが毎日使っているパソコンやスマートフォンは、すべての情報を「ビット」という単位で扱っています。ビットは0か1のどちらかの値しか取れません。文章も写真も音楽も、突き詰めれば膨大な数の0と1の並びです。

これに対して、量子コンピュータが使う情報の単位が「量子ビット(キュービット)」です。量子ビットは、0か1のどちらかに決まった状態だけでなく、0と1が一定の割合で重なり合った状態を取ることができます。この性質を「重ね合わせ」といいます。

地球儀でイメージする

量子ビットのイメージとしてよく使われるのが地球儀です。北極を0、南極を1とすると、普通のビットは北極か南極のどちらかにしかいられません。一方、量子ビットは地球儀の表面のどこにでもいることができます。赤道の上にいれば0と1が半々の状態、北寄りなら0の割合が大きい状態です。

ただし、量子ビットを読み出す(測定する)と、結果は必ず0か1のどちらかになります。地球儀のどこにいたかで決まるのは、0と1のどちらが出やすいかという確率です。なお、地球儀の経度にあたる情報も量子ビットの状態の一部で、別の記事で紹介する「干渉」で重要な役割を果たします。

数が増えると扱える組合せが急増する

量子ビットが注目される最大の理由は、数を増やしたときの振る舞いにあります。

普通のビットは「1通り」しか表せない

まず、普通のビットで考えてみます。ビットが1つなら、表せるのは0か1の2通りです。2つなら00・01・10・11の4通り、3つなら000・001・010・011・100・101・110・111の8通りになります。ビットが1つ増えるたびに、ありうる組合せは2倍になっていきます。

ここで大切なのは、普通のビットが一度に表せるのは、そのうちの1通りだけだということです。3つのビットは、8通りのうち、例えば「101」という1つの並びを表しているにすぎません。

量子ビットは「全部の組合せ」を一度に持てる

一方、量子ビットが3つあれば、8通りの組合せすべてを重ね合わせた状態を作ることができます。しかも、8通りのそれぞれが、どのくらいの重みで含まれているかという情報を、まとめて持つことができます。ただし、望みどおりの重みを持つ状態を作るには、多くの操作が必要になることがあります。

また、すべての組合せを別々の答えとして一度に取り出せるわけではありません。この点は後ほど説明します。

部屋の明かりにたとえてみましょう。8つの部屋が並んだ家があるとします。普通のビットは、8つの部屋のうちどれか1つだけに明かりをつけられるスイッチのようなものです。これに対して量子ビットは、8つの部屋すべてに、部屋ごとに違う明るさの明かりを同時にともせるようなものです。

2倍、2倍の増え方は想像を超える

組合せの数は、量子ビットが1つ増えるたびに2倍になります。2倍ずつ増えることの威力は、紙を折る例で実感できます。厚さ0.1ミリメートルの紙を、仮に何回でも折れるとすると、厚さは1回折るごとに2倍になり、42回折ると約44万キロメートルになります。地球から月までの距離(約38万キロメートル)を超えてしまうのです。

量子ビットの数と組合せの数の関係も、同じように急激に増えていきます。

量子ビットの数重ね合わせに含められる組合せの数
1個2通り
2個4通り
3個8通り
10個1024通り
20個約105万通り
50個約1100兆通り
300個10の90乗通り程度

観測できる宇宙にある原子の数は10の80乗個程度と見積もられています。量子ビットが300個あれば、組合せの数はそれをはるかに上回ります。

スーパーコンピュータでも追いつけない

このすごさは、普通のコンピュータで量子ビットの動きを再現(シミュレーション)しようとするとよく分かります。一般的な量子ビットの状態を、すべての組合せについての数値の一覧として記録しようとすると、組合せの数と同じだけの数値を覚えておかなければなりません。

量子ビットが50個なら、約1100兆個の数値が必要です。1つの数値を記録するのに16バイトを使うとすると、必要な記憶容量は約18ペタバイト(1ペタバイトは1000兆バイト)にもなります。これは、最先端のスーパーコンピュータでも、そのまま記憶するのは難しい規模です。

状態や回路の性質をうまく利用して、はるかに少ない記憶量で計算できる場合もあります。しかし、一覧として記録する方法では、量子ビットが300個にもなれば、宇宙のすべての原子を記憶装置に使っても足りません。量子ビットは、わずかな数を増やすだけで、普通のコンピュータには手に負えない規模の状態を表せるのです。

ただし「全部の答えを一度に取り出せる」わけではない

ここで注意が必要です。膨大な組合せを重ね合わせで持つことができても、最後に量子ビットを測定すると、出てくる結果はそのうちの1通りだけです。部屋の明かりの例でいえば、家をのぞいた瞬間に、明かりのついた部屋は1つに決まってしまいます。明るい部屋ほど選ばれやすいものの、どの部屋になるかは確率で決まります。

そこで量子コンピュータでは、「干渉」という性質を使い、正しい答えにあたる部屋の明かりが強くなり、それ以外の部屋の明かりが弱くなるように計算を組み立てます。このような工夫ができるのは特定の種類の問題に限られるため、量子コンピュータは何でも速く解けるわけではありません。干渉の仕組みは、別の記事で詳しく紹介します。

何で作るのか

量子ビットの作り方には、極低温に冷やした超伝導回路を使う方式や、真空中に電場で捕まえたイオン(電気を帯びた原子)を使う方式があります。このほか、光の粒である光子を使う方式、シリコンなどの半導体の中に閉じ込めた電子を使う方式、レーザーで並べた中性原子を使う方式などもあります。それぞれに長所と短所があり、世界中の研究機関や企業がしのぎを削っています。量子ビットは量子コンピュータの部品であり、量子技術を理解するための出発点です。

よくある質問

量子ビットを測定するとどうなりますか?

結果は必ず0か1のどちらかになります。重ね合わせの状態で決まっているのは、0と1のどちらが出やすいかという確率です。

量子ビットがあれば、全部の答えを一度に取り出せますか?

取り出せません。膨大な組合せを重ね合わせで持てても、測定で出てくる結果はそのうちの1通りだけです。そこで干渉を使い、正しい答えが出やすくなるように計算を組み立てます。

量子ビットは何で作られているのですか?

極低温の超伝導回路、真空中に捕まえたイオン、光子、半導体中の電子、レーザーで並べた中性原子などを使う方式があります。それぞれに長所と短所があります。

まとめ

  • 普通のビットは0か1のどちらかですが、量子ビットは0と1の重ね合わせを取れます。
  • 量子ビットが1つ増えるごとに、重ね合わせに含められる組合せは2倍になります。
  • 50個の量子ビットの状態を一覧で記録すると、約18ペタバイトの記憶容量が必要です。
  • 測定で得られる結果は1通りだけなので、干渉を使って正しい答えを出やすくします。

量子技術に関わる共同研究開発契約・ライセンス契約、特許による技術の保護、外為法規制対応など、具体的な事案については弁護士にご相談ください。iCraft法律事務所でもご相談をお受けしています。

連載「量子ノート」


本記事は、量子技術に関わる業務に携わっている弁護士である筆者が、大学時代の教科書や論文などを読み直し、自分なりの理解をまとめたものです。量子技術の専門家の方からご覧になると、不正確な点があるかもしれませんが、その点はどうかご容赦ください。

更新履歴:令和8年10月 公開(noteで公開した連載を改訂して掲載)

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この記事を書いた人

弁護士・弁理士(iCraft法律事務所)。京都大学工学部物理工学科卒業。生成AI・データ利活用・システム開発・知的財産、量子技術・宇宙・メタバース等のディープテック分野の法律問題を専門的に取り扱う。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」作業部会委員、日本弁護士連合会「AI戦略ワーキンググループ」委員、日本弁理士会特許委員会副委員長などを歴任。

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